ファッション産業は環境負荷が非常に大きい産業と指摘され、サステナブルなファッションへの取り組みが提唱されていることは皆さんご存じかと思います。しかし、「具体的にどんな環境負荷がどの程度かかっているのか」と考えると、しっかりと理解している方は少ないのではないでしょうか。
この記事では、ファッション産業で起こっている環境負荷を具体的な数字や事例で確認し、私たちにできることを考えていきます。また、Chilscheがどうして「子供服のリユース事業」を行っているのかも、最後にお伝えしたく思います。
※本記事に掲載の数値のうち、注記の無いものは環境省サステナブルファッション(https://www.env.go.jp/policy/sustainable_fashion/)のページを引用しております
まずは、ファッション産業が「大量生産、大量消費、大量廃棄」と言われている理由を探ります。
国内の衣類の供給量、消費量、廃棄量は以下の状況です。
年間供給量:82.2万トン
年間販売量:81.2万トン
年間廃棄量:1.6万トン
※環境省 令和6年度循環型ファッションの推進方策に関する調査業務(https://www.env.go.jp/content/000312877.pdf)
廃棄量は供給量の1.9%なので、「作りすぎ」という訳ではなさそうです。では、どうして「大量生産、大量消費、大量廃棄」と言われているのでしょう。
国内アパレルの年間供給量の増減を見てみると、1990年から2022年の22年間で1.8倍に増加しています。
1990年の国内供給点数:20.0億点
2022年の国内供給点数:37.3億点
*2024年9月 経済産業省 繊維産業の現状と政策について(https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/mono/fiber/pdf/240904-4.pdf)
統計局によると、人口は1990年が1億2361万人、2022年が1億2495万人とほぼ変わりません(1.01倍)。
衣服の一人あたりの年間平均消費・利用状況は購入 18枚、手放す服 15枚、着用されない服 35枚と言われていますので、この30年間で私たちは2倍の洋服を購入し、2倍の洋服を捨てているようなイメージになります。
ファッションを楽しむことは人生を豊かにしてくれますので、デザインに優れた品質の良い洋服をたくさん手に入れることができるようになったことは世界の進歩であり、ファッション産業の努力によって実現したものです。
しかし、ここで問題になるのが「環境負荷」です。多くの方がファッションを楽しめる素晴らしい社会を実現した結果、地球の環境が破壊され、劣化していっているのであれば、「地球の環境が悪化しないレベルにファッション産業の消費リソースを抑える/やり方を変える必要があるのではないか」という話になります。これが、サステナブルファッションが提唱される理由だとChilscheは理解しています。
CO2排出量を見ると、全体の46.8%(44,559/95,230)が「原材料調達」で発生し、次に多いのが「染色」の28.0%(26,695/95,230)、「紡績」14.9%(14,180/95,230)と続きます。
出所:2024年9月 経済産業省 繊維産業の現状と政策について(https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/mono/fiber/pdf/240904-4.pdf)
どうやら、原材料調達から紡績という「生地を作る」部分のCO2排出量が多いようです。
温室効果ガスの排出以外にも問題があるようですので、これらの工程ごとに環境負荷を見ていきたいと思います。
コットンなどの天然繊維を栽培する際の水の消費量が多いという問題が指摘されています。1着の服を作るのに2,300リットルの水(バスタブ11杯分)を使用するそうです。
しかし、植物を栽培する際に畑で水を使うという話だと思いますので、それで環境を破壊していると言われても、いまいちピンときません。天然繊維の栽培で起こった環境破壊の事例を見てみましょう。
■アラル海の消失
・かつて世界で4番目に大きな湖だったアラル海の90%が消失。
・ウズベキスタンやカザフスタンでの綿花(コットン)大規模栽培のため、アムダリヤ川・シルダリヤ川の水を灌漑用に転用したことが原因。
・「世界最悪の人為的環境破壊」と呼ばれている。
綿花は乾燥地域で栽培されるので、不自然に周辺の水資源を大量に使用する結果、人為的に環境を変更してしまうことが問題のようです。インドでは地下水の水位が低下したり、パキスタンでは上流で農業用水を取りすぎて下流地域で水不足が発生したり、いろいろと問題が起こっているようです。
同じくコットンなどの天然繊維を栽培する際に農薬を使うことが問題になっています。農薬の問題点として挙げられるのは以下のようです。
・水質汚染(農薬が地下水や河川に流出して生態系に毒性を及ぼす)
・土壌劣化(土壌の微生物バランスが崩壊し、作物が育ちにくくなる)
・生物多様性の喪失(益虫も殺す、農薬に汚染された植物や動物を食べた鳥や小動物が死ぬ)
・人間の健康への影響(農民と周辺住民の農薬中毒による健康被害、食物連鎖による残留農薬の体内蓄積)
これは、かなり直接的に理解できます。
ポリエステル、ナイロン、アクリルなどの合成繊維は石油由来であるため、石油の採掘・輸送・精製による環境負荷がそのまま該当します。合成繊維の製造過程においても高温・高圧の工程が含まれており、そこでも温室効果ガスが排出されます。これが、CO2排出量が多い理由のようです。
水質汚染の最大要因。染色や仕上げに使う化学薬品が未処理のまま排出されるケースも多いそうです。欧州議会の公式サイトによると、繊維生産は染色および仕上げ工程を通じて、世界のきれいな水の汚染の約20%の原因となっていると報告されています。
*The impact of textile production and waste on the environment (infographics)
(https://www.europarl.europa.eu/topics/en/article/20201208STO93327/the-impact-of-textile-production-and-waste-on-the-environment-infographics?utm_source=chatgpt.com)
水質汚染は水生生物の大量死、周辺住民の健康被害、飲料水の枯渇など、様々な公害を引き起こしてきましたので、「ゼロにすべき問題」と理解できます。
この工程では機械が連続的に稼働するため、大量の電力を消費するようです。特に化学繊維の製造工程は高温処理を要するため、エネルギー消費が大きいそうです。よって、この工程もCO2排出量が多くなっているようです。
特定の地域で水資源が枯渇したり、土地や河川が汚染されたり、石油消費が多くなったりすることは問題だと直感的に理解できますが、本質的に何が問題なのでしょうか。地球の歴史を通じて、気候変動や生態系の変化は繰り返されてきましたので、人間の活動により環境が変化するのは必然とも考えられます。この問題のポイントは「持続可能性」にあるようです。
これまでの自然環境の変化は数万年から数百万年単位で進行し、生物が適応・進化する時間がありました。しかし、現在起こっている人為的な環境変化は数十年から百年単位で起こっており、適応できずに絶滅する生物や絶滅が危惧されている生物が多く存在し、絶滅のペースは過去1000万年の平均より10倍から100倍速い*と言われています。
地球温暖化や環境汚染に人間も適応していないので、人間も絶滅に向けて進んでいるのかもしれません。この「人為的に起こしている環境変化」を止めて、人間を含めた現在の生物が住みやすい地球環境を維持することが重要であると考えられているようです。
*BBC NEWS 人類のせいで「動植物100万種が絶滅危機」=国連主催会合(https://www.bbc.com/japanese/48182496?utm_source=chatgpt.com)
人為的に起こしている環境変化ですから、続けるのも止めるのも人間の選択です。Chilscheは「子供たちの未来に美しい風景を残したい」と考えています。洋服の環境負荷を下げるためにするべきとChilscheが考えることを記載してみます。
Chilscheのメンバーの中には、30年くらい前に購入した服を今も着ている人がいます。極端な例ですが、それくらい(デザインも生地も)長持ちする服というのがあるのです。全ての服を30年着れるとは思いませんが、「気に入った服を長く着る」というのが、最初にすべきことと考えます。
次に環境負荷が低いのがリユースです。これまで見てきたようにファッション産業で環境負荷が高いのは洋服の製造工程です。製造工程をスキップできるリユース(次の人に渡す)が、セカンドチョイスになります。
最終的に洋服は廃棄されます。これまで見てきたように、洋服の製造工程の中で原材料の調達工程の環境負荷が最も高いことがわかりましたので、原材料として再利用してもらえるリサイクルを行うのが、最後の選択になります。最近は、アパレルブランドや自治体が資源回収を積極的に行っていますので、手間を惜しまずにリサイクルに出す習慣が必要だと考えます。
Chilscheは環境負荷を下げるためにビジネスとして取り組める「2.リユースを行う」を事業としております。その中でも、成長のため長く着ることができない「子供服」にフォーカスして事業を行うことにより、リユースしたい時に選択肢がある状態を作り出そうとしています。
私たち大人が選ぶものは、子供たちの未来に影響します。子供と未来のために、今できることを実行する必用があります。Chilscheと一緒に、子供たちの未来に美しい風景を残すための行動を選択していただけると嬉しいです。
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